4月27日に80歳と1ヶ月で亡くなったロストロポーヴィッチのドキュメンタリー映画 “ロストロポーヴィチ 人生の祭典” を観る。 訃報を聞いてすぐに観たいと思われた方もいらっしゃったのでしょう、4月30日、休日だったこともあり、108名入る部屋は14時の部で満席。年配の方から若い人たちまで、ロストロポーヴィチを愛してやまない人たち(自分を含)は、スクリーンに映る今は亡き氏の姿を一寸も見逃すまいと見つめていました。 ソ連時代(現ロシア)に生きた多くの世界的な芸術家たちを語る時、この時代の政治的背景をぬきにしては話せないはずです。ロストロポーヴィチもその一人。彼が生まれたのは1927年。まさに独裁政治のスターリン政権下にあって、芸術の自由などない時代でした。 映画は、彼の幼い頃から晩年のロシアでの活動を、昔の貴重な写真を交えながら、監督自らのナレーションで綴られいくものでした。 妻であり、世界的オペラ歌手のガリーナ・ヴィシネフスカヤの存在もとても興味深く、彼と半生を伴にしたガリ―ナのことは今回詳しく知りましたが、とても奥の深い女性。随所に彼女の歌声も入り、こちらも感動しました。 早くから才能を認められたロストロポーヴィチ、その功績は映画のHPにも詳しく書かれていますが、彼が本格デビューしたのが10代半ば、二十歳前ですでに世界のトップの仲間入りをしていたのです。そのことを感じさせるのが、世界最高のチェリストと呼ばれたカザルスがインタビューで、「世界の優れた4人のチェリスト」 に、ピアティゴルスキー、カサド、フルニエ、そしてロストロポーヴィチの名前をあげたことです。 映画の中で、彼がインタビューに答えるシーンはどれも興味深く、親交のあった大作曲家のプロコフィエフやショスタコーヴィチやマーラーの話題になると生き生きと語り、愛弟子の小澤征爾の指揮で演奏している姿は神々しく、是非その場で聴いて見たかったと思いました。 また、妻のガリーナへのインタビューでは、彼女が、「亡命する時、彼は子どものように泣きじゃくりました」 と話していたところでは胸が熱くなりました。それほど祖国を愛していたのですね。70歳の誕生祝賀会での様子はやんちゃな子どものようで微笑ましかった。 世界のチェリストと才能を認められながら、市民権を剥奪されても、政府に真っ向から立ち向かい真理を貫いた音楽家。彼が奏でるチェロが万人の心を弾きつけるのは、彼がチェロを弾くために、いえチェロという楽器を通して「愛と自由と平和」を世界の人々に伝える役目を神さまから与えられた人だからなのだと思います。 頂点に立つ人は、どのような苦境にたたされても、世界はその人を求め、必要とする。 そんな事を考えながら映画館を後にしました。一緒に連れて行った娘が、「ロストロポーヴィチって可愛いね。ママのお隣の人、映画みて涙流していたよ」 と言っていました。 もう彼はいないんだと思うと、やはり胸が痛くなります。
by soleiljap
| 2007-05-02 14:41
| ◇ 音 楽
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